ビジネス課題に対してユーザー視点で解決策を探る手法として注目されるデザインシンキングは、会議やワークショップにも最適です。しかし、どのように会議設計に組み込み、参加者全員の創造力を引き出すかを知らないと、形だけの“アイデア出し”に終わってしまいます。
本記事では、会議前の準備からプロセス設計、進行テクニック、ツール・フォローアップ方法までを解説します。
デザインシンキング型会議のメリットと適用場面
イノベーション創出とチームビルディング
デザインシンキングを会議に取り入れる最大のメリットは、ユーザーや顧客の“本質的なニーズ”を出発点にすることで、ビジネス課題への斬新な解決策を生みやすくなることです。
また、参加者が共に観察・共感・発想・プロトタイプ・テストというプロセスを体験することで、チームとしての一体感が生まれ、次回以降の協働にも好影響を与えます。
適用が向いている会議タイプ
具体的には、サービス企画、新製品開発、業務プロセス改善など、まだ正解が定まっていない“探索的”な議題に最適です。
一方、定型的な報告会や数値チェックを主目的とする会議には、デザインシンキングの導入コストがかえって効率を落とすことがあるため、目的を見極めて適用範囲を設定しましょう。
デザインシンキング会議の5ステップ設計
1. 共感（Empathize）：ユーザー視点の導入
会議の冒頭では、対象となるユーザーやステークホルダーの立場で考える“共感”フェーズを行います。事前にインタビューやアンケートを実施し、具体的なエピソードや感情を共有することで、参加者の心に課題意識を深く刻みます。動画や写真を使った短いケーススタディも効果的です。
2. 問題定義（Define）：本質的な問いを設定
収集したデータをもとに、複数見えてきた課題を「どうすれば…できるか？」という問いに落とし込みます。ホワイトボードや付箋ボードに「ユーザーは〇〇で困っている」というペルソナ型の問題文を並べ、チームで合意形成を図りながら最重要課題を1〜2つに絞り込みます。
3. 発想（Ideate）：量と質を両立したブレスト
問題定義後は、短時間で多くのアイデアを生み出すブレインストーミングを実施。ルールは「批判禁止」「量を重視」「奇抜さ歓迎」の3つ。オンラインではMiroやJamboard、対面では付箋を用い、アイデアを書き出した後、チームごとにAffinity Diagramでグルーピングして整理します。
4. プロトタイプ（Prototype）：素早い試作で検証準備
絞り込んだアイデアを小規模かつ低コストで“試作”するプロトタイプを作成します。紙模型、パワーポイントの画面遷移、ペーパープロトタイプなど、形にすることで具体性が増し、会議中の議論が深まります。時間は30分程度に限定し、「完璧さ」ではなく「伝わること」を優先します。
5. テスト（Test）：フィードバックを受けて改善
プロトタイプを使って模擬ユーザや別チームに対してテストを実施。短いインタビューや使った感想を付箋で収集し、良かった点・改善点を分類します。テスト結果を即座にフィードバックセッションで共有し、アイデアをブラッシュアップした後、次のアクションプランを策定します。
会議進行を成功させるファシリテーション技術
心理的安全性を担保するアイスブレイク
リラックスした雰囲気を作る簡単なウォームアップとして、自分の好きなプロダクト紹介や「最近ハマっていること」を一言ずつシェア。多様な意見を歓迎する姿勢を見せることで、発言のハードルを下げ、クリエイティブな雰囲気を醸成します。
時間管理と可視化ツールの活用
各フェーズの所要時間を明示し、ホワイトボードやオンラインタイマーで進捗を可視化します。時間切れになりそうな場合は、あらかじめFibonacci方式で優先度をつけた付箋を先に扱うなど、柔軟に調整できるルールを設けるとスムーズです。
対話を促すリフレクション質問
各ステップ終了時に「どんな気づきがあったか」「驚いたことは何か」を問いかけ、全員で短い振り返りを行います。問いを共有することで、各フェーズの学びが深まり、次のステップに集中しやすくなります。
オンライン／ハイブリッド会議でのデザインシンキング
デジタルホワイトボードの設定
Miro、FigJam、Microsoft Whiteboardなどを導入し、参加者全員が同時にアクセスできるテンプレートを事前に用意します。付箋の色やカテゴリー、フレームを設定し、会議開始直後に共有メニューから呼び出せる状態にしておくと、スムーズにスタートできます。
ブレイクアウトルームで小グループ議論
発想フェーズではZoomやTeamsのブレイクアウトルームを使い、少人数で集中的に議論。モデレーターは各ルームを巡回し、困りごとや質問を受け付けます。5〜6名程度で15分間の短いサイクルを2〜3回繰り返すと、多様な視点が集まります。
チャットとリアクションで合意形成
オンラインでは発言のタイミングが難しいため、チャットや絵文字リアクションでアイデアへの賛否を示す仕組みを活用します。投票機能を使えば、支持率の高いアイデアが一目瞭然となり、合意形成が加速します。
会議後のフォローアップと成果管理
アクションアイテムの明確化とKPI設定
議論の最後に、各アイデアに対して「担当者」「期限」「成功指標」を具体的に決定します。KPIはユーザー反応数、プロトタイプ作成数、PoC実施件数など、イノベーションプロセスの進捗を計測できる指標を設定します。
成果共有とナレッジベース化
会議記録、プロトタイプ画像、テスト結果を社内WikiやNotionで公開し、誰でも参照できる状態にします。タグやカテゴリで整理することで、類似課題での再利用性が高まり、組織全体の学習効率が向上します。
継続的改善のための振り返り会
1ヶ月後を目安に「デザインシンキング振り返り会」を開催し、PDCAを回します。成功事例の展開やツール・プロセスの改善点を共有し、次回以降の会議設計に反映させることで、継続的にイノベーティブな文化を強化します。
まとめ：会議でデザインシンキングを定着させ成長を加速
「会議のデザインシンキング活用」には、共感からテストまでの全5ステップを適切に設計し、ファシリテーション技術とデジタルツールを組み合わせることが不可欠です。
目的設定、多様性確保、可視化と振り返りを一体化したワークショップ形式の会議を定着させれば、組織内にイノベーションの芽が次々に生まれ、持続的な成長を後押しします。ぜひ本ガイドを参考に、次回の会議からデザインシンキングを実践してみてください。
