フットサルはサッカーのスピード感とテクニックを凝縮した5人制室内競技として、世界中で急速に普及しています。その普及と質の向上をリードしてきたのが国際サッカー連盟(FIFA)です。
FIFAは大会運営のみならず、ルール整備、審判教育、コーチングライセンス、グラスルーツ開発まで多岐にわたるサポートを行い、フットサルを「世界のメジャースポーツ」の一角へと押し上げつつあります。
本ガイドでは、FIFAのガバナンス構造から、主催大会、ルール委員会、開発プログラム、技術研究、今後のビジョンまで解説します。
FIFAのガバナンスとフットサル部門
FIFAはサッカーだけでなく、フットサルとビーチサッカーを合わせた「フットボールファミリー」を統括する国際統括機関です。2016年にはフットサル専門の技術委員会(Futsal Commission)が常設され、フットサル特有の技術・戦術・審判制度を専門に扱う体制が整備されました。
フットサル部門は、技術委員会傘下に「ルールおよび審判部会」「大会運営部会」「開発支援部会」を設置し、それぞれが連携しながら世界基準の統一と普及を推進しています。各部会の役割分担は以下のとおりです。
ルールおよび審判部会
フットサル独自ルールの策定・改定を担う委員会。IFAB(国際フットボール協会理事会)と協調し、サッカーとは異なる累積ファウル制度やタイムストップ制の適用基準を管理しています。また、年1回のルール講習会を世界各地で開催し、審判員の質向上を図っています。
大会運営部会
FIFAフットサルワールドカップをはじめとする国際大会の企画・実施を担当。開催国選定からスタジアム整備、放映権契約、スポンサーシップ獲得まで総合的に管理し、大会価値を最大化しています。
開発支援部会
各大陸連盟および国内連盟への技術支援、グラスルーツプログラムの提供、コーチ・審判ライセンス講習の実施を通じて、競技基盤の構築と人材育成を行います。助成金や機材寄贈など、発展途上国の育成支援も重点的に実施しています。
FIFA主催大会の全貌:ワールドカップからユース大会まで
FIFAは4年に1度のFIFAフットサルワールドカップを中心に、U-20およびU-17ユース、女子フットサルワールドカップなど、年代別・性別を問わない大会を展開しています。これらは国際競技レベルの指標となり、各国内連盟の競技力向上を促す原動力です。
主なFIFAフットサル大会は以下の通りです。
FIFAフットサルワールドカップ
創設は1989年。2004年より4年ごとに開催され、24チームが本大会に出場しています。優勝国には莫大な賞金と世界的名誉が与えられ、プロプレーヤーや指導者のキャリアを大きく後押しします。
FIFA U-20 フットサルワールドカップ
若手育成を目的とした大会。U-20世代の国際経験を促進し、各国が将来のA代表戦力を養成する場として活用しています。
FIFA女子フットサルワールドカップ(試験運用中)
女子競技の普及と地位向上を図るため、2023年に初のエキシビションが実施。今後正式化に向けた評価が続行中です。
ルール整備と技術革新:FIFAの取り組み
フットサルはサッカーと異なるスピード感と戦術が特長のため、FIFAはルール整備を通じて競技の質を維持・向上させています。主な改定と技術革新の事例は以下の通りです。
累積ファウル制度の導入と見直し
累積ファウルの概念は、フットサル独自の競争促進策です。第6ファウル以降は無壁フリースローを適用し、攻撃のチャンスを生み出します。FIFAはデータ分析をもとに累積ラインの調整や反則基準の細分化を行い、試合の公平性とエンタメ性を両立させています。
タイムストップ制の継続的評価
試合時計を停止するタイムストップ制は、残り時間の緊張感を高める効果がありますが、運営の複雑化や中継時間の増大が課題となります。FIFAはテレビ中継パートナーと協議し、試合時間管理システムのデジタル化を進めながら、最適な運用を模索中です。
ビデオアシスタントレフェリー(VAR)の実証実験
一部の国際大会でVARの試験導入が進んでいます。フットサル専用のカメラ配置やリプレイルーム運営マニュアルを策定し、競技特性に応じた可用性と迅速な判定が行えるか検証を継続しています。
グラスルーツ開発とコーチング/審判ライセンス制度
競技人口の拡大と質の底上げには、下部組織の整備と人材育成が欠かせません。FIFAは各国連盟と連携し、グラスルーツプログラム「Futsal for All」を展開すると同時に、最新のコーチング理論と審判教育を提供しています。
“Futsal for All” グラスルーツプログラム
基礎技術習得、ルール理解、フェアプレー精神を4〜12歳向けに指導するカリキュラムです。専用教材や指導者ガイド、オンライン講習プラットフォームを整備し、地方クラブや学校単位での導入を後押ししています。
コーチングライセンスの階層構造
FIFAは育成年代用のCライセンス、上級指導者用のB・Aライセンス、そしてナショナルチーム監督向けプロライセンスを設置。各ライセンスに求められる講義・実技・実践経験を明確化し、世界標準の指導者育成を推進しています。
審判ライセンスと審判育成トラック
フットサル専用審判ライセンスはD〜Aの4段階。映像教材とeラーニングシステムを活用し、最新の判定ガイドラインやケーススタディを世界中で共有。審判員の均質化と高レベル審判の輩出を目指します。
技術研究とデータ分析:未来を見据えたFIFAの投資
FIFAはフットサルの戦術・フィジカル研究にも注力し、大学や研究機関と共同でプロジェクトを推進。GPSトラッキング、心拍モニタリング、ビデオ分析を組み合わせ、選手のパフォーマンス最適化とケガ予防策を科学的に導出しています。
パフォーマンスデータの活用例
大会中の選手走行距離、スプリント回数、心拍変動をリアルタイムで収集し、コーチ・医療スタッフへフィードバック。ハーフタイムの戦術修正やトレーニング負荷調整に活用されています。
戦術トレンド検証プロジェクト
「GKパワープレイ」の成功要因分析や、「ゾーンプレス」展開時のスペース管理技術など、最新戦術の定量的評価を行う研究プロジェクトを定期的に公表。世界中のフットサルコミュニティで共有され、戦術革新を促進しています。
FIFA関与がもたらす今後の展望と課題
FIFAの総合的な関与により、フットサルは急速にグローバル競技としての地位を確立しつつあります。しかし、女子競技や発展途上地域の普及、人材育成格差、商業化と伝統とのバランス調整など、未解決の課題も残ります。
FIFAはこれらを克服するため、2025年以降「Women’s Futsal World Cup」の正式化、アフリカ・南米でのグラスルーツ助成拡大、デジタルプラットフォームを活用したe競技連携など、複数イニシアティブを計画中です。
まとめ:FIFAと共に歩むフットサルの新時代
FIFAの関与は単なる運営支援にとどまらず、ルール整備、審判・指導者育成、大会拡充、技術研究、普及開発のあらゆる領域をカバーしています。これによりフットサルはプロ化が進み、観客動員や放映権収入も拡大。
今後は女子競技や発展途上国への展開強化が鍵となり、FIFAと各連盟が協力して新たな高みへ挑戦します。本ガイドが、フットサル関係者の戦略立案と実践に役立つことを願っています。

